第三章

第三章 『スペースダンスとは何か?』

〜ダンスの後にデザインが生まれる。身体という「土地」に新しい収穫物が実る〜

1 スペースダンスの誕生

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1953年にDNAの遺伝子モデルが二重螺旋構造である事が明らかにされて以来、分子生物学は大きな発展を遂げ、私たちの世界に偉大な貢献をもたらすようになった。私は、もし身体と環境の間で交わされている親密な、そして謎に満ちた関係をDNA のような「見える情報」として表現できるなら、その成果はアートの世界を超え、社会全体に影響を与えるものとなり、分子生物学と同様な革命を起こすことができると信じている。私はスペースダンスを通してその一端を担いたい。

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スペースダンスは、私が美術家・荒川修作とアフォーダンス理論に出会ったことを契機に、舞踏をベースとして、2001年のニューヨーク国連本部とイスタンブールでの公演でその原形が誕生した。

  スペースダンスの核心は、「記憶の発掘」と、明日の人間の身体をデザインするために必要な「身体知の情報化」であり、「身体知の情報化」を通して得られる諸々の「デザインという果実」である。

1995年の或る日、荒川修作が東京で私に囁いた不思議な言葉。「ダンスの後に何も生まれていないと、虚しいのでは?」。私はこの言葉に心底より霊感をうけ、スペースダンスを「アート&デザイン」の活動として新しいアートの形式に高めたいと思った。私は舞踏家として、たしかに日常的に三里塚の農民の「土地」に当たる「身体」を手に入れた。しかし、「身体という土地」に実る産物は何か? 舞踏家を続けることが、劇場という既成のアートシステムを豊かにすることに役立つだけなら、それは私の本意ではない。私の舞踏は、同じく大学という既成の社会システムに対する違和感から始まったからだ。私は舞踏を通して、既成のものではない、これまで存在しなかった「新しい社会的な成果」を手に入れたい。そうしなければ収まりがつかない思いがあった。しかしそれはいつまでも見えなかった。

2 スペースダンスの定義

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私の「スペースダンスの定義」は次の通りである。

[50-1]

スペースダンスでは、身体は「物語」を表現するための道具ではなく、身体が「物語」である

[50-2]

すぐれたダンサーは、いつの時代でも、「身体を客体化してダンスする技術」を持っている。スペースダンスでは、この技術を学び、ダンスの動きを通じて「記憶の発掘」に挑戦し、そこで得られた成果を「身体知」として蓄積する。

[50-3]

」は、地面との接触面を通じて一重力の地球に繋がっている。人は日常ではこの事実を忘れて生活しているが、身体を客体化してダンスすることで、「足」と地面の関係は親和的になり、身体と地球の密接な関係が回復される。

[50-4]

ダンサーが地球との密接な関係を回復してダンスする時、「」の頭頂葉や側頭葉にわずかな異変が生じる。それは、地球と接続された身体を動かすことは「脳」にとってもはじめての体験だからである。

[50-5]

はじめての体験を行うためには、「脳」も新しい力を獲得する必要があった。その体験は、まるで、盲人が愛用の杖を自分の「第2の身体」にして地面を探っていくように、ダンサーも地球を「第2の身体」として宇宙を探っていくような体験である。

[50-6]

「脳」は、その誕生の過程で、母の胎内に約10ヶ月存在する間に発生時の脳から現在の人間の脳に至るまでの進化史を再現しつつ形成される為、脳にはすべての生命体の記憶が貯蔵されている。そのために、人の身体の動きにも「人の動き以外の動き」が混じっている。

[50-7]

スペースダンスでは、ダンサーが、臓器のかすかな波動のようなものとして、或いは骨の響きとして、或いは神経の震えとして、脳にわずかな異変を感じ、その影響でふとしたはずみにこれまで経験したことがない動きをはじめる時に、脳に貯蔵された「忘れられた記憶」に触れ、それらの記憶を刺激し、覚醒させる。

[50-8]

「忘れられた記憶」はダンサーの心につよい郷愁の念を呼び起こし、ダンサーに新しいエネルギーを与え、人間としての「既知の動きの世界」の背後に「未知の動きの世界」が存在することを教えてくれる。

[50-9]

このエネルギーは無限である。「忘れられた記憶」を発掘したダンサーは、脳の機能を発展させ、個々の記憶に対応した「思いがけない動き」を体現し、その新鮮さにふるえ、自ら驚く。その発掘と体現の程度により、ダンサーは「人間的な劇を超えた新しい物語」を身体をもって語りはじめる。

[50-10]

このエネルギーを宿したダンサーは、踊れば踊るほど、「大雪が積もった坂道を転げ落ちる雪ダルマ」のようにエネルギーを増幅させ、疲れることがない。

[50-11]

スペースダンスでは、こうして「忘れられた記憶」を発掘し、それに応じた「未知の動きの世界」を展開し、この過程を魚・両生類・四足動物・鳥・サルを含む「姿勢の進化史」として表現する。

[50-12]

「姿勢の進化史」は、手や足を持たないアメーバーからはじまり、現在の人間の二足歩行の形態として一つの頂点を迎えている。しかし、この頂点も、宇宙時代を迎えた今日の世界においては「一つの通過点」に過ぎない。

[50-13]

なぜ「姿勢の進化史」として表現することが重要なのか? それはスペースダンスが、ヒトの起源について回想すると共に、その回想からのリターンとして、ヒトの「身体の未来」をデザインすることを目的としているからである。

[50-14]

スペースダンスでは、このようにして体験される「姿勢の進化史」を映像として可視化すると共に、ここで蓄積される「未知の動きの世界についての身体知」を、情報技術を使用して情報化し、「身体・モノ・空間を対象とするデザイン」として変換し、出力する。

[50-15]

こうして、スペースダンスでは、ダンスの後にデザインが誕生する。このデザインを出力するために、「ダンス+建築+情報+デザイン」による共同作業を採用し、「身体知」の情報化に必要なインスタレーションとしてスペースチューブを使用する。

[50-16]

スペースチューブは、近代建築による「かたい空間」とは異なり、「やわらかい空間」である。そのため、スペースチューブの内部では、身体の動きと空間の形状が一対一の関係で即応するため、個々のダンサーが蓄積した「身体知」が容易に情報化の対象となる。

[50-17]

こうして、スペースダンスとは、通常のダンスとは異なり、ダンスの後にデザインを出力する「ダンス&デザインの行為」となる。

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