第1話

■目次

[序]
心改造ゲームがはじまった
[第1部]
【第2話】 現実(四次元時空)と異界(五次元時空)
【第3話】 ノアとアスカ
[第2部]
【第4話】 王女の夢、電脳サイト『イスタンブール』

[第3部]
【第5話】 異界の住人たち~キベ・タナ・エレナ
【第6話】 メタトロン軍の野望と戦略
【第7話】 エックハルト軍の『ヒト宇宙化計画』
【第8話】 アトム4世~ヒトを愛せるロボット
【第9話】 宇宙の花計画~破壊される月
【第10話】 エリカ攻撃と、イカイとエダの情報戦争
【第11話】 ノア、脳回路を使い分ける
【第12話】 電脳恋愛の光と影

【第13話】 大家族の出現

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[第1部]

【第1話】 スペーストンネル少年少女学校

スペーストンネル少年少女学校では、生徒たちがスペースチューブ・ロボットスーツ・秘書ロボットの3点セットを巧みに使用し、スペーストンネルの通行技術を学び、「新しい姿勢の創造」に挑戦している。その成果により、生徒たちはこの学校が採用する仮説に従って脳機能を発達させ、「新しい身体」を形成し、心を高め、人類の「ニュー世代」として誕生できることになっている。
この学校の目的は、優秀な生徒たちを選抜し、新・国連が2035年に創設したエックハルト軍による情報戦争の戦士として育てること、さらには『ヒト宇宙化計画』を担い、地球再生と宇宙文化創造のための革命に参加させることにある。
そのためには、これまでの地球中心の発想に基づいた子供たちへの教育は、無効であるとまでは言わなくても、その大部分が有効性を失い、変更を迫られることになった。宇宙文化創造は、地球中心の発想では可能にならない事が既に判明しているからである。
たとえば、地上での戦争のノウハウを宇宙に持ち込む軍事戦略についても、宇宙では役に立たないことは、既に最近の数々の実戦を通して実証されている。実際、地球人の武器から発射される弾丸や光線などが、それが核化されているか否かには無関係に、そのすべてが宇宙人の身体を無傷で突き抜けてしまうことがわかっている以上、現在ではこの点について異論を差し挟む者たちも存在しなくなった。地球人が発明した武器が有効なのは、地球人と地球で誕生した生物に対してだけだったのである。 たとえば、地球人が撃ったピストルの弾が、なぜ宇宙人の身体を突き抜けてしまうのか。スペーストンネルが登場するまでは、実地では経験して知っていても、その理由は明確ではなかった。それが、スペーストンネル体験により、何よりも明瞭になった。
つまり、実際に、人びとは、スペーストンネルの中で、宇宙人の本当の姿を、史上はじめて、その目で明確に確認できた。宇宙人は、スペーストンネルの中に現れるかと思えば、一瞬の内に消え去る。それは、なぜか? スペーストンネルは、電脳空間であると共に、四次元世界と五次元世界を結ぶ通路である。つまり、宇宙人は五次元世界に属していたのだ。
宇宙人は、スペーストンネルの中で、五次元世界から四次元世界に顔を出している。われわれ地球人が四次元世界に住む住人であるのに対して、宇宙人は五次元世界に住む住人だった。四次元世界と五次元世界では、世界を構成する物質の組成が違う。したがって、当然ながら、四次元世界で通用する武器が五次元世界では通用しない。地球人が撃ったピストルの弾が宇宙人の身体を突き抜けてしまうのも、この理由からだった。仮にスペーストンネルの中に現れた宇宙人をピストルで撃っても、それは宇宙人にとっては自分を四次元世界に転写した仮想で現実ではないから、実際にダメージを受けることはないわけだ。
つまり、次元が違うのだ。この事実が、スペーストンネル体験により、科学的に、公式に証明されてしまった。このような事態は、これまでの地球では経験されたことがなく、誰にとっても青天の霹靂に近いものだった。
こうして、教育の観点からも、戦争の観点からも、文化創造の観点からも、これまでにない新しい宇宙思想に基づく「新人類創造のための新しい訓練」が必要になったのである。 だから、スペーストンネル少年少女学校の生徒たちが「新しい姿勢の創造」に挑戦するとは、誰にもはじめての内容のため奇妙に聞こえるかも知れないが、以上の必要性から迫られた結果によるものである。宇宙思想の観点に立てば、いたって自然で必然的な訓練であることが誰にも理解できるようになる。

1 姿勢創造訓練とは?

 シーン1 魚の姿勢で、泳いだり、川の急流に必死に耐えたりする生徒たち  シーン2 両生類の姿勢で、水中遊泳を楽しみ、また陸上歩行を楽しむ生徒たち
 シーン3 鳥の姿勢で、空中を飛び、恐竜時代への回想にふける生徒たち
 シーン4 サルの姿勢で、足も手のように自在に操る生徒たち
 シーン5 全員が一体になり、巨大なイルカロボットの形成を試みる生徒たち
 シーン6 遺伝子の二重螺旋の軌跡を描き、高速回転を繰り返す生徒たち

私の名はノア。
17才。 私は、7才の時に、原因不明の理由で失明した。今日はお父さんのアレノに連れられて、はじめてニューヨークのセントラルパーク公園の地下にあるこのスペーストンネル少年少女学校にやって来た。
私はもう普通の学校は退屈でつまらない。何をしても、すぐに飽きてしまう。初めはそれは私の我がままのせいで私がいけないのだと思っていたけど、お父さんの説明でそうではない事がわかった。この風変わりな学校には、世界中から私と同じようなおませな考えの同年齢の子たちがたくさん集まっていると聞いたので、すごく楽しみにしていた。
それにお父さんの話しでは、もしかしたらここで私の目も見えるようになるかも知れないと言っている。本当かしら? 
でも、たしかに、この学校は変わってる。お父さんも変わった人だから、どんなところに案内されるのかは予想していたけど、でもその奇妙さは私の想像を超えていた。まず、学校が何で公園の地下の大きな池の真下にあるの? 私は空気の流れ方から大体の様子がわかるけど、この地下の空間は巨大な大きさをもっている。何でそんな必要があるのかしら。 それに、この学校の床には平面がないよ。つまり、床が全部、何だか曲面や微妙な斜面で構成されている。だから真っ直ぐに歩けない。ちょっと余所見をしてるだけで、壁や柱に頭やからだがぶつかる。なぜ? 一体何のつもりなの? 
これだけでもこの学校は相当におかしいのだ。 私は、空気の流れを感じるために皮膚感覚を最大に開き、愛用の杖で床を軽く叩き、少しでも平らな面を捜し、あちこちフラフラと曲がって歩きながら、私の隣を同じようにフラフラ歩いているお父さんの気配を伺った。私は、目が見えなくても、人に手をつないでもらって歩くのは好きじゃない。出来るだけ一人で歩くことにしている。だって、その方が、人に頼らなくて済む。それに、実際に人が私の隣にくっついていると、私の空間知覚が鈍ってしまうのだ。その人が余分な空気の流れを私が知覚したい空間に与えて、空間の性質を変えてしまうからだ。
だから、私は今だって、お父さんに頼らずに一人で歩いている。 但し、私には、人の気配を感じることも重要な手がかりだ。空気の流れの変化は物理的な変化だけど、人の気配は物理的なものだけじゃないから。気配さえわかれば、私は目が見えなくても、人とコミュニケーションが出来る。人が何をしているかはほとんどわかるし、何を考えているかも大体わかる。私は気配にすごく敏感。もちろん、そのために、私は出来るだけお父さんの近くを歩く必要があるけど。
でも、こんな習慣のおかげで、私の感覚は皮膚感覚を中心にすごく発達したみたい。お父さんも誉めてくれる。その辺の話しに詳しいお父さんによれば、私は目が見える子のように空間を認識しているのではなく、触覚で空間を見ているのだそうだ。
見ている? たしかに、そうかも知れないわ。私は、いつも、歩きはじめると、自分が水に満たされた大きなプールの中を泳いでいる気がして、その時は自分の様子もプールの大きさも、みんな見える。私が少し動くだけで、私はプール全体の水の動きを感じるし、プールの壁がどんな感じなのかも感じる。今日の水は少し濁っているとか、壁には随分アカが溜まっているみたいとか。お父さんの説明では、私が感じるプールが私が存在しているこの空間という事になる。面白いなと思う。
とにかく、私はこの空間は奇妙な感じがするので、お父さんに聞いてみた。 「ねぇ、お父さん。何だかこの学校は変だよ」
離れたところから、お父さんが私の顔を覗き込んでいるのを感じる。私の顔が少しだけ熱くなった。私の顔は誰かに見つめられると熱くなるように出来ている。でも、お父さんは全然心配してないみたいだ。
「どこが変かな? 楽しいじゃないか」
「だって、床が平らじゃない。歩きにくい」
「この方がいいんだよ。心配ないよ」
「へぇ、どうしてかしら?」
お父さんの返事はいつもこんな調子で、トボケているのか、真剣なのか、わからない。お父さんの返事は何とも奇妙だ。
「だって、ここでは、人間がなぜ二足歩行する動物になったのか、いつも反省していられるからね。二足歩行は大切だよ。しかし、人間はその大切さをすぐに忘れてしまう。ここでは二足歩行がうまく出来ないから、かえって人間が二足歩行を始めた頃を思い出せるんだ」
「はぁ? 二足歩行? それがどうしたの?」
私はめげた。相変わらずのお父さん。面白いけど、まるでわからない。わからないのは私だけじゃない。
「ノアは、歩きにくいからって、別に這いつくばって歩きたいわけじゃないだろう? 這いつくばって歩くことは爬虫類や両生類に戻ることだよ。戻りたいわけ?」
「えーっ、爬虫類に戻るなんて、いやだ。私はただ真っ直ぐ歩きたいだけよ。でも、こんなところを歩くなら這いつくばるのもいいかもね」
「ノアだって普段は忘れてるよね。二足歩行の有難みを。でも忘れちゃいけない。二足歩行って、それは素晴らしいことなんだ。二足歩行が人間を人間として成立させた最大の条件だ。この事を忘れると、人間の現在もなくなるし、未来もなくなる」
「ふーん、人間の未来もなくなるの? そうなんだ!」
私は、ニコニコ笑ってみせた。よくわらないけど、感心したことにしておく。そうしないとお父さんの機嫌も悪くなるしね。
「そうだよ。二足歩行の有難みを忘れた人間は、宇宙環境に出て行った時、魚や両生類に退化する可能性が非常に高い。だって、宇宙環境は無重力に近いから、魚や両生類の姿勢と人間の姿勢は同じになる。無重力の中では、人間は歩きたくても歩けない。要するに、二足歩行を忘れる。でも、姿勢がすべてを決定するからね。ノアも学校で勉強しなかった? そのままの姿勢を続けていれば、手も足も不要になって、間違いなく人間は退化する。この学校の床は、そのことを子供たちに考えさせるためにつくられているんだ」
「へぇ、何だかすごいのね。私は魚になるのはいいけど、両生類に退化するなんて絶対にイヤよ。許して欲しいわ」
私は、自分が歩くのをやめてトカゲやヘビになった姿を想像してみた。トカゲやヘビだけはどうしても好きになれない。
「そうだろう?」
お父さんが私を見て、得意そうな顔をしている。
「でも、イルカになれるなら楽しそう」
「イルカは魚じゃないからね」
「そうか、イルカは特別だったわね。学校では、イルカは大昔シカみたいな小さな動物が海に還った姿と習ったけど。本当なの?」
「クジラも同じだよ。クジラも、大昔は動物だったのに、なぜか海に還った。まだ科学的には証明されてないけど、どうもそうらしいね」
お父さんの専門はロボットだから、生物には詳しくないみたい。
「ところで、誰がこんな奇妙な学校をつくったのかしら?」
「僕の友だちの建築家だよ。変わった友人で、自分は前世でロシアの第1世代の宇宙飛行士だったと真剣に考えている。その時に宇宙に10年間の長期滞在を経験し、僕がさっき言った理由で手も足もボロボロに萎縮させて帰還したそうだ。彼はその反省を生かす為にもう一度地上に生まれて建築家としてやり直し、この学校の床を斜めにしたと言っていた」
「すごい! と言うか、すごい妄想というべきか。お父さんの友だちは本当に変な人ばっかりね」
また感心して見せたが、依然として何のことかよくわからない。この学校の床を斜めにすることと、宇宙環境で二足歩行を保つこととは、具体的にどう関係するのかな? でも、わからないけど、お父さんの話しは面白いので、ついつい聞き役に回ってしまう。 そして、お父さんと一緒にいくつかのクラスを覗き、そこがどんな様子か説明を聞いて、もっと驚いた。
何だか学校じゃないみたい。サーカス団の訓練場に来たみたい。生徒たちは変な動きばかりを練習している。これが、姿勢の訓練なの? 私が今案内されたこの空間は、巨大な体育館かな? 或いは水族館かな? 水の匂いがするから水族館かも知れない。
お父さんの説明では、何本ものスペースチューブが迷宮のように張り巡らされていて、変わった形の空間や大きな水槽の中を、私と同じ年くらいのたくさんの子たちが奇妙な格好をして空中に浮かんだり、変なポーズで休んだり、泳いだりしているそうだ。
私は、経験がないことについては、お父さんの説明だけで推測するしかない。とにかく、奇妙の一言。はじめて聞くことばかり。でも、面白そうだ。私は好奇心が人一倍つよいから、私も早く自分で動いて試してみたい。自分で少しでも動けば、お父さんの説明がどういう事か具体的にわかる。
それにしても、二足歩行の有難みって、一体何だろう? それが、こんな奇妙な練習でわかるのかしら? お父さんが私に言った。私の反応はお父さんにもすぐにわかったみたいだ。お父さんは、いつの間にかすぐ私の隣に来ていた。
「面白そうだろう? さっそくノアも試してみよう。こんな光景はノアも聞いたことがないはずだ」
「もちろんはじめてよ。一体全体、みんな、何してるの? これがお父さんが言っていた姿勢創造訓練だと思うけど」
「その通り。ノアにもうまくなって欲しい」
「何のために?」
お父さんは、ここで一息ついた。かなり真面目な話しのようだ。
「もちろん、ノアが人類のニュー世代の一人になるためだよ」
「ニュー世代って?」
「そう。ニュー世代。僕たちの世代がその準備をして、ノアたちの世代が世界の残された問題を解決するんだ」
「どんな問題?」
お父さんがゆっくり話し始めた。
「地球の救済と、正しい宇宙開発の推進。いまの人間のやり方のままでは、地球も滅ぶし、宇宙開発のあり方もダメだからね。問題が多すぎるんだ。せっかく成功した火星開発でも、すぐに火星の人間たちと地球の人間たちが対立してしまった。特に地球の人間たちが未熟だった。その未熟さをつかれて火星の人間たちに地球に対する 絶縁宣言を出されたわけだけど、地球側からしたら、これ以上の地球文化に対する侮辱はないよ。火星の人間たちは、地球文化に重大な欠陥を発見したと主張している。もうこれ以上一緒にはやれないというわけだ。でも、お父さんとしても、彼らの主張の方が正しいと考えている。だから困っているわけだ。僕は地球人だからね。他の惑星に行った地球人は全員が死んでしまった。居住が成功したのは火星だけ。月は地球から一番近いのに、成功しているとは言い難い。この学校の校長のイカイ先生の話しでは、今では地球文化の評判は他の惑星でもさんざんだそうだ」
ほんとかしら? 私ははじめて聞いた話しだ。
「そんな評判が異星人たちから届いているの?」
「イカイ先生の報告ではね」
めずらしくお父さんがガッカリしている様子だ。こういう時は、お父さんは言わないけど内心ではすごく怒っている。私も何だか元気を失くしそう。
「でも、お父さんは相変わらず変なことを言うね。そんな難しいことが私たち子供に出来るわけがないじゃない」
「お前たちニュー世代ならできる」
「どうして?」
「いまノアの目の前で生徒たちがやっている訓練で、彼らは0重力と1重力の間を自由に往来している。それで、新しい姿勢をつくり、脳の側頭葉を発達させるんだよ。ノアは目が見えないけど、心配ない。同じ動きがやれる。触覚が発達してるから、それで補える。補えるどころじゃなくて、多分ノアの場合は、脳のもっと別の開発もやれる。あとでイカイ先生から詳しく説明してもらうけどね。側頭葉を発達させることがニュー世代の最初の条件になるんだよ」
「そくとうよう?」
側頭葉がキーになるなんて、はじめて聞いた。本当にお父さんの話しには、奇妙な話しが多い。
「そうだよ。でも、本当のことなんだ」
「お父さんは何だか自信たっぷりね。私にはますますわからない」
ここでお父さんは、なぜか声を大きくして言った。誰かに聞かせてるみたい。近くに誰かいるのかしら?

 側頭葉は耳の上の方だ。 人間の大脳皮質はもうこれ以上進化しない。 新しい人類は、側頭葉を発達させた、お前たちのようなニュー世代から誕生するんだ。 この新しい世代だけが地球を救える。 火星の人間たちとケンカしなくても済む。 宇宙に進出して、新しい宇宙文化も創造できる。 そうしなければ、地球は滅ぶ。 宇宙進出も明白な限界を迎える。

「そうなの? でも、相変わらずさっぱりわからないよ。お父さんたちの世代と私たちの世代と何が違うの?」
お父さんが私の頭の耳の上に触りながら言った。
「脳の機能が大きく変化するんだよ。これまでの人間の脳は地球の1重力用だからね。側頭葉が発達すると、宇宙の無重力環境にも対応できるようになる。新しい思考と新しい感情も生まれる。新しい人間の姿をイメージできるようになる」
「ホントかしら? 何だか、すごく難しそう。それゃー、面白いかも知れないけど」
お父さんがまた元気になってきた。
「絶対に、面白いよ。ノアならできると思ってここに連れてきた。ノアの場合は、見えなくなっていた目も回復するかも知れないしね」
「えっ、私の目が治るの?」
「その可能性があるそうだ。この学校の訓練では、人間の感覚の全体を拡張することになる。その過程で、ノアの場合にはダメになっている視覚野にも、これまでと違った新しい刺激が与えられる。だから、可能性はあるとお父さんも感じた。そして、それだけじゃなく、ノアにはもっと別の能力が目覚めるかも知れないと、この学校では期待されている。そう思っているのはお父さんだけじゃないんだよ」
「それで私をここに連れて来たのね?」
「そうだよ。この学校にノアに特別なことが起きる可能性があなら、そのチャンスを逃す手はないだろ?」
「でも、どうしてそんなことわかるの? お父さんもやったの?」
「うん。実は、お父さんもこの学校の最初の卒業生なんだよ」
「えーっ、ビックリ。お父さんがこの学校の卒業生なんて、知らなかった。お母さんにも聞いてないわよ」
これには私も本当に驚いた。
「お母さんははちろん知ってるよ。でも、その時期が来たらノアに話そうと、お母さんと相談していたんだ。今日、やっとその時が来たというわけだ」
「そうだったんだ」
「この学校で、お父さんにも、少しだけだけど、特別なことが起きた。だからわかるんだ。きっと、ノアにも起きる。多分、もっと凄いことが」
「ホント? それなら嬉しいけど」
「でも、お父さんは大人になってから始めたから、側頭葉がうまく発達しなかった。もう硬くなっていて、うまく膨らまないんだよ。だからノアたちに期待している。優秀な生徒も、もう何人か出ている」
「ずいぶん奇妙な話なのね。質問がたくさんあるわ。でも、お父さんがどうしてもと言うなら、私もやってみる」
「もうすぐイカイ先生がここに来るから、ノアに紹介するよ。あそこで面白い格好でもう一人の人と手を繋ぎ合っているのがイカイ先生だよ」

お父さんが指差す方向に見当をつけて顔を向けたら、確かに何か特別な気配を出している人が二人いるのがわかった。私には見えないけど、わかる。暖かい、いい感じだ。私がじっとしていると、私のからだの表面が波立ってきた。私は気持ちが昂揚するとすぐにこうなる。よく鳥肌が立つって言うけど、あれに似ている。あの二人は親しい関係だと思う。恋人同士? 夫婦かな? でも、何してるのかしら? 大人なのに、手を繋いだりして。お父さんの話しでは、二人で一つの独楽をつくるみたいにして、ものすごい勢いで回転しているという。へぇー、回転してるんだ。目が回らないのかしら?

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