第6話

■目次

[序]
心改造ゲームがはじまった [第1部] 【第1話】 スペーストンネル少年少女学校 【第2話】 現実(四次元時空)と異界(五次元時空) 【第3話】 ノアとアスカ [第2部] 【第4話】 王女の夢、電脳サイト『イスタンブール』 [第3部] 【第5話】 異界の住人たち~キベ・タナ・エレナ 【第7話】 エックハルト軍の『ヒト宇宙化計画』 【第8話】 アトム4世~ヒトを愛せるロボット 【第9話】 宇宙の花計画~破壊される月 【第10話】 エリカ攻撃と、イカイとエダの情報戦争 【第11話】 ノア、脳回路を使い分ける 【第12話】 電脳恋愛の光と影 【第13話】 大家族の出現

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【第6話】 メタトロン軍の野望と戦略

1 メタトロン軍

私の名前はエダ。47才。メタトロン軍の大佐をつとめている。 メタトロン軍は、最高指導者のオスマン・ウイサルによって発案された。オスマンは中東某国の現役の政治家でもある。そこに、アジェイが科学部門統括リーダーとして加わり、私が大佐として呼ばれたことで、軍の体裁が整えられた。2035年に、新・国連のエックルト軍と戦うため、中東を中心に世界の複数諸国から秘密の資金援助を受け、正式に軍としてスタートした。現在は月に前衛基地をもち、本部をイスラエル上空の宇宙ステーションに置いている。イスラエルとは友好関係にあるため、イスラエル領空のまたその上の空を借用しているのだ。その他に地上には、オスマンの中東某国に最先端のロボット技術と心改造技術をもつ広大な秘密基地を所有する。いずれの基地ともに核武装され、最新の兵器を揃えている。軍は、公称では、100万人の軍隊と500万体のロボット兵士により構成されている。それでも充分ではないが、主力は情報戦争を担う特殊部隊から構成されているため、活動に支障はない。 メタトロン軍の主目的は、公には世界の平和構築に貢献し、新しい宇宙政策を展開すること。新・国連による欺瞞的な世界平和主義に逆らい、アラブ諸国に肩入れしているが、しかしあくまでもいかなる国家にも所属しないことを旨とする。現在でも、2020年に勃発した第7次中東戦争以降の中東戦争がイスラエル・パレスチナ間で続いているが、原則としてどちらの勢力にも加担しないことになっている。世界のマスコミはメタトロン軍はイスラエルよりと報じているが、それは誤りである。 オスマンは、70才。政治家としてやり手であり、その手口は巧妙である。アメリカと中国・インド・ロシアの対立、及びイスラエルとアラブ諸国の対立をうまく利用している。イスラエルとアラブ諸国が公にはできない外交問題を抱えた時に、メタトロン軍が秘密作戦という条件のもとで陰でその処理につとめてきた。そのため彼らからの信頼は絶大であり、メタトロン軍の独自活動は大目に見られている。オスマンが世界と宇宙に君臨する新中東王国樹立の野望を抱いていることは彼らも承知しているが、それを見て見ぬふりなのだ。必要以上の頭角を現した場合にだけ叩き、有効な成果を奪い、自分たちのために利用するという考えだ。オスマンもその点はよく承知している。当然、それを回避するための方法も考えている。 一方のアジェイは、ロンドン生まれの中東人で、52才。アジェイは、私から見ても、危険だ。その過激な思想と行動で、中東各国からも危険視されている。なぜそのような危険思想をもつようになったのかは、私にもわからない。彼の人生は秘密のベールに包まれている。彼がロンドン大学で生理学・遺伝子工学・脳科学を学び、主席で卒業したこと、ベイルートの病院で脳外科の主任教授を務めていたこと、そこを32才の若さでやめたことだけはわかっている。何があってそこを辞職したのか、その後20年間何をやっていたのか、それについては誰も知らない。オスマンも詳しいことは知らないようだ。とにかく、アジェイは、かつてのナチス優生学に取り憑かれた狂人だ。世界中の人びとの脳を改造し、新中東王国を形成するための新民族の誕生を図ろうとしている。オスマンはアジェイに出会い、狂喜して喜んだ。これでメタトロン軍の科学部門のリーダーを獲得できたと思ったからだ。 しかし、アジェイの考えは、私からすれば、単に危険思想であるに過ぎず、実行原理としては充分ではない。つまり、甘いのだ。せいぜい数千人や数万人規模の脳改造はアジェイ方式でできても、民族規模に相当するような大量の人間の脳改造など、アジェイ方式で可能になるはずがない。私がアジェイに何度説明しても、彼は理解しようとしない。狂信とは、まさに恐ろしいものだ。 脳改造された人間が、一定の閾値を超え、大量に登場すれば、 「別の論理」が生まれ、「別の力」が作用する。 われわれは、この「別の論理」と「別の力」に注目しなければならないのだ。それなしに、大量の人間を一律にコントロールできることなどあり得ない。オスマンもアジェイもそこまでは考えていない。甘い。当面の目標に夢中なのだ。私は、思想としても、戦略としても、もう少し違うことを考えている。当面の目標についてはそれでいい。しかし、その後は、私の作戦が必要になるはずだ。

2 悪の自壊

「悪の自壊という原理が存在する。誰も信じないが。 私がメタトロン軍に加入した理由は、ある意味で単純だ。悪の内部に入り込み、自分も悪にまみれながら、悪に悪の限界を知らしめること。それ以外、真に善に相当するものが実現される見込みはないと考えるからだ。 私は、パレスチナ人として生まれ、絶え間なくくり返される中東戦争の渦中を生きてきた。私の子供時代も、青春も、戦争の悲惨さと共にあった。周囲にはつねに憎悪と血の海が広がっていた。最後までイスラエルを国家として認めずハマスを支援していた私の父母も、その関係で5人の兄も、イスラエル軍の侵攻で私の目の前で殺された。女の私も最後に撃たれて気絶したが、私だけが病院で奇跡的に助かった。たった一人で。しかも心に重い傷を抱えて。この世にまた生きろと放り出されたのだ。しかし、私のような目にあった子供たちは数え切れない。現在もその数が増えている。私は、このままでは埒が明かないと心の底から考えた。 新しい国家の形態として、 欧米式統治ともアジア式統治とも異なるアラブ式民主主義を確立したい。 しかし、そんな民主主義がアラブの地に実現される見込みもまた、現在のままでは皆無だった。私を蔭で支援してくれている新・国連のサイード・S博士の深刻な体験を見ても、明らかだ。博士ほどアラブの歴史に蹂躙された者はいない。第1次中東戦争にはじまり、博士はありとあらゆる戦争の悲劇をアラブの地で見てきた。父がパレスチナ人、母がイスラエル人だったことがそもそもの禍のはじまりだ。博士は両国に味方したかったし、実際にそうしてきた。しかし両国から裏切られ続けてきた。パレスチナ人の父をイスラエル人に殺され、イスラエル人の母をパレスチナ人に殺されたことは、何よりもその悲惨な象徴だ。国連と行ったあらゆる博士の和平努力も、実を結ぶことなく終っている。その不毛の状態が、現在に至るまで、減少するどころではなく、拡大の一途だ。アラブの地は、いまも深い怨念の感情に染められている。そんな時に、誰が呑気な平和主義や「善の勝利」など、誰が信じるだろうか。 アラブの地に住んでみればわかる。パレスチナ人の主張もイスラエル人の主張も、どちらも「善」だ。或いはどちらも「悪」だ。善悪論では決して解決せず、対立の根は深い。この対立は誰も解消できない。アメリカが長年にわたり両者に対する仲介を試みてきたが、対立の根の深さに疲れ果て、撤退せざるを得なかった。 善の側が、つまり「私たちは善の実現のために活動している」と自称する者たちが掲げる方法は、私には楽天的すぎ、馴染めない。彼らは世界を甘く見ている。善が実現される場合も、そんなことで善が実現された例は、それが重要な紛争であればあるほど、歴史的に一度もない。多くの場合が、善の力が直接及ばない範囲での、単なる武力による勝利か、或いは悪の自壊作用によっているのだ。 それはむろん、善の攻勢の中での出来事のため、たしかに善と無関係ではない。しかし、少なくとも善の側の主体的勝利ではなく、そこに直接の勝因があるのではない。事態はもっと微妙で複雑なのだ。 実際に、悪だけが自己の目的を遂げることができる。そして、悪が実現されてしまえば、むろん世界はひどいことになる。しかし、それを実現する直前か、或いは実現したすぐ後に、まるで呪われていたかのように、自壊が起きることがある。 こんなことを目指していたのではなかった。 これが、つねに、悪が勝利した時のセリフだ。だから、この瞬間に賭けるしかないのだ。この瞬間における悪の自壊を演出するための戦略こそが、有効なのだ。私は、この戦略に命を賭けている。 つまり、最大の焦点は善と悪の闘争ではない。それは表面で起きる事件であり、水面下で起きる事件こそ重要なポイントなのだ。善の攻勢の中での、悪の側の勝利こそが、悪を自壊させ、結果として善が実現される可能性がある。われわれは、この過程に注目しなければならない。 善の側につく者たちには、この点がわからない。善が悪をやっつけることが出来ると勝手に勘違いしてしまう。それは事実ではない。人間が陥った困難な状況を打開するためには、悪と世界から名指しされる側に自ら進んで身を置く必要も出てくるのだ。 実際、戦争はすべて悪である。いかなる理由であれ、人間を殺すことが善であるはずがない。善の戦争など存在しない。しかし、戦争終結後に、勝利した側が、自分たちの戦争は善の戦争だったと勝手に歴史を捏造してきただけだ。世界史とはこの捏造のオンパレードだ。なぜ、人間を殺してもいいのか? しかも、戦争では、10人を殺した者は小者に過ぎず、なぜ1万人を殺した者が英雄なのか? こんな馬鹿げたウソが、なぜ現在に至るまで糾弾されずに続いているのか? 欧米諸国にしても、絶え間ない戦争の連続だった。現在生き残っている国々とは、全員がその悪の戦争を勝ち抜いてきた者たちである。 むろん、私はつねに私の戦略が必要であると主張したいのではない。それは、複雑怪奇な中東における国家の解体と民主主義の実現を目的にするような、特殊なケースについてだけだ。私は、アジアやアフリカに対しても私の戦略を薦めるつもりはない。私は彼らについては何も知らないし、関心もない。 そして、現在の世界とアラブの情勢が、その特殊なケースに相当する。私は、悩みぬいた果てに、メタトロン軍に身を置くことを決心した。今回の場合は、歴史上最も複雑な戦争になってしまった中東戦争が、大量のロボット兵士を獲得したことで、新しい戦争のあり方に移行してしまった。 人間は死なない。破壊されるのはロボット兵士。だから戦争も肯定される。この奇妙な論理で、まさに戦争が公式に「解禁」されたのだ。当然、このような最悪の戦争が、地球規模で世界中に及ぶことになる。また、この最悪の戦争が、宇宙核戦争として宇宙に持ち込まれることになる。そして、冗談ではなく、人間という種の滅亡というおまけまでついている。 私は、メタトロン軍に参加し、オスマンとアジェイの計画を推進し、最後に私の作戦を実行することで、悪の自壊を実現したいと考えている。そのためにはまず勝利しなければならない。私の作戦は、悪の規模としては、歴史上最大のものになるだろう。

3 方法

私は、2020年に勃発したイスラエル・パレスチナの第7次中東戦争では、功労者の一人ということになっている。そのため、私は最初はエックハルト軍に参加を要請された。しかし、オスマンは私を誤解している。 私がこの戦争でパレスチナ人として戦争終結に一定の役割を果たすことができたのは、ハマスの一員としてイスラエル軍に勝利したわけではないのだ。イスラム過激主義と結び彼らの自爆テロをそのまま導入したわけでもない。外部からは、私がハマスの強大化に成功したことでイスラエル軍を沈黙させたように見えたかも知れない。しかし、事実は違う。ハマスがイスラエル軍に軍事的に勝利したことはこれまでも一度もなかった。それ以降も、その見込みはゼロだった。 私はただ、数人の単位で行われていたそれまでの自爆テロを、10人の単位による10ヶ所以上の同時自爆テロとして、単に首都テルアビブだけではなくイスラエル全土において実行し、ある意味で徹底的に拡大しただけだ。しかも、自爆テロの担い手には兵士は採用せず、徹底して10代後半の民間人の少女に限った。私は、私と同じような心の傷をもつ少女たちだけをパレスチナ全土から探し出し、つねに200名程度の大集団として教育した。自爆テロを志願する少女たちの数は、驚くほど多かったし、彼女たちの心に宿った憎悪も深かった。ひるがえってみれば、1948年の第1次中東戦争以来、約80年もの長期にわたり憎悪と血に染められた国土に生きることを強いられてきたパレスチナ人にとっては、それも自然なことなのだ。イスラム過激主義もハマスも、私の作戦には直接タッチしていない。私が別の組織を秘密学校としてつくり、これまでにない形の自爆テロを実行しただけだ。 そして、私が2023年に実行した自爆テロは、私が思い描いたように、大成功し、次に、内部から、見事に崩壊した。そして、私が組織した自爆テロ学校も続いて崩壊したその原因は、世界中から大きな同情を集め、評価されてしまったからだ。 悪が表舞台に出て、お日様の光を浴びてしまえば、 太陽の下に連れ出された吸血鬼と同じだ。 私の自爆テロ作戦は、むろんイスラエル本体には物質的な打撃を与えていない。イスラエル軍は健在のままだった。しかし、「多くの純真なパレスチナの少女たちにこれほど憎まれることになったイスラエル」というプロパガンダは、心理的にイスラエルに甚大な被害を与え、国際世論は一斉に少女たちに味方した。この意味において成功したことで、背後から支援したハマスは民意を取り戻し、パレスチナとアラブ全土から評価されるようになり、パレスチナの確固たる第一党の地位を占めることになった。国際世論を味方にする方法を間違えてしまったイスラエルとその軍は、これ以上パレスチナに攻撃を仕掛ける理由を失った。 自爆テロは、強大な武力をもつ国家に抵抗するための自衛の策だ。それ以上のものではない。誰も、それで相手との戦争に勝利するとは期待していない。イスラム過激主義も、自爆テロで、非イスラム圏のイスラム圏への侵入に抵抗しているだけだ。それで非イスラム国家群を打倒し、世界をイスラム圏に塗り替えてしまうことまでを意図していない。だからこそ、考え方をひとつ変え、それに必要な新しい戦略を導入すれば、自爆テロはさらに積極的な作戦になり得る。 いずれにしても、第7次中東戦争は終結した。しかし、本質的な問題は何も解決していない。火種はそのまま残っているのだ。私の出番はここからだ。

4 戦略

メタトロン軍が、中東の地から台頭したのは必然だった。 しかも、メタトロン軍は、中東の地から生まれたにも拘らず、もはやパレスチナとイスラエルのどちらの勝利も目指していない。私がメタトロン軍に参加したのも、この考えは使えると思ったからだ。 私は、オスマンの新中東王国樹立の野心や、アジェイの人間改造論を支持しているわけではない。悪として評価しているということだ。この悪が、どこまで悪として成功するかをやってみようということだ。むろん、そのために必要になる犠牲は、通常の自爆テロの比ではない。メタトロン軍における私の作戦では、一度に1万人以上の犠牲が必要だ。それを何度も、相手が戦意を喪失するまで繰り返す。現代の「トロイの木馬」のようなものだ。 したがって、私がそのための戦士として用意するのは今回は少女ではなく、ロボット兵士だ。しかも単なるバカなロボット兵士ではない。私は、アジェイと組み、フランスの某会社と協同し、脳改造技術をロボットの人工脳に適用して「人間を憎悪できるロボット兵士」の大量開発に成功しつつある。このロボット兵士が、敵のロボット兵士と人間を殺すのだ。エックハルト軍が開発中の「人間と共生するロボット兵士」と比較すれば、まさに対極のロボットだ。私は彼らのロボット兵士を評価する立場にはない。しかし、われわれのロボット兵士も、彼らのロボット兵士も、既成の「人間の言いなりになるロボット兵士」の凡庸さに比べたら、まさに別世界の存在だ。 また、スタートしたばかりとはいえ、電脳空間のネットロボットを利用した敵や一般人への脳への侵入も開始している。この計画は、かつてトルコのイスタンブールで有名になった電脳サイト『イスタンブール』の栄光と失敗の事件からヒントを得たものだ。アジェイの脳改造作戦と平行して進行させているが、私の方法は、アジェイのような有無を言わせぬ強制的な脳の乗っ取りではない。無理やりではなく、相手の方から「乗っ取ってください」と言い出すように仕組むのである。これからの「脳さらい」は、暴力によるのではなく、愛によるものでなければならない。 脳さらい。 それは、相手が自分で乗っ取られることを望んでしまうような、はるかに魔術的なものだ。 この場合にのみ、われわれは侵入した敵の脳に、われわれによる改造の証拠を残さない。仮に修復された場合にも、敵はわれわれに恨みを抱かない。なぜなら、その改造は彼らの自発的な選択だったからだ。私は恋愛についてはほとんど何も知らない。私の人生では、私が恋愛ができるような羨ましい環境には恵まれなかった。しかし、私がここで考えている「魔術」が、もし「愛の魔術」に似ているとするならば、それはそれで面白いのではないかと思う。 私は、すでに私の作戦を決定し、準備を開始した。作戦名は『宇宙の花計画』。オスマンやアジェイの計画が成功した後に、正式に展開されることになっている。オスマンやアジェイは、私の真の目的を知れば驚くだろう。しかし、その時はもう遅い。 ただし、この計画を成功させるためには、中心になって推進した私が確実に死ななければならない。実行される悪が大規模になるほど、それを仕掛けた者の存在は抹殺されている必要がある。どんな噂も、それが噂であるならば、私が疑われても構わない。しかし、私が陰で操作していたことの証拠が発見されてしまえば、悪の自壊は起きにくい。だから、私は、一切の証拠と共に、この世からきれいに消え去ることになっている。私の死後も、私の分身ロボットに自己を託し、私を延命させることはしない。それでは証拠が生き証人として残ってしまう。私の心は無尽に解体し、この宇宙から永遠に消え去る必要がある。それが私のような悪を担う者の運命だ。 オスマンやアジェイにも、私が死ぬことになっていることは極秘だ。部下にも一切伝えていない。私の防御技術は完璧であり、いかなる者の私の脳への侵入によっても解読される心配はない。ただ一人、エックハルト軍のイカイ以外には。彼だけが、私にとっては最大の難敵だ。 したがって、私が作戦を全面的に展開する前に果たすべき課題は、イカイの殺害であり、イカイの脳操作技術を私が上回ることである。私の敵は、彼以外には誰もいない。 しかし、たしかに、心情的には、私は、せめてイカイが私の立場をもう少し理解してくれたらと願っているかも知れない。真の敵であるなら、それ位の理解力があってもいいはずではないか? そうすれば、私はもっと楽に死んでいけるだろう。私は、現代科学技術の成果を駆使し、地球人として最初で最後の最大規模の自爆テロをやろうしている。私を理解してくれるのは、世界中でサイード・S博士一人だけかも知れない。しかし、それもやむを得ないのだろう。 私の死後、アラブ諸国は使命を終えたメタトロン軍と共に解体し、エックハルト軍も標的を失うはずだ。エックハルト軍が宇宙に向けて出発した後に、ここ中東の地においては、私の一部の部下も参加し、私が考えたアラブ式民主主義と呼ぶべき新しい統治の試みがはじまるはずだ。それはもはや、いかなる国家による統治でもない。それが成功し、実を結ぶなら、アラブ民族がまた独自の方式において宇宙に進出することも夢ではない。その進出は、国家の形態を残したまま進出した者たちよりも、はかに優れた成功を収めるはずである。      

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